628杯目:富士そば綱島店、しぶそば綱島店で綱島ソースかつ丼
いまや、SNSは企業にとって欠かせない広報ツールになっている。立ち食いそば業界も例外ではなく、いくつかの立ち食いそばチェーンがTwitter(現:X)に公式アカウントを設けている。富士そばはもちろんのこと、小諸そばや箱根そば、えきめんや、しぶそば……と各々が毎日のよう情報を発信。そのなかでも富士そばのXアカウントはやや浮いた存在だ。「いいね」やリポストを狙いすぎるきらいがあり、マニアの私ですら食傷気味になるほど。それでも、しぶそばのXアカウントを管理する「くまくん」は、富士そばのXアカウントにも友好的で、両者のやり取りにはほほえましさすら覚える。

両者の関係性を考えたら、今回のコラボも自然の成り行きだったのかもしれない。3月17日より、しぶそば綱島店と富士そば綱島店で「綱島ソースかつ丼」(ともに750円)の提供がスタートした(提供は3月31日まで)。「綱島ソースかつ丼」は、もともと綱島の老舗居酒屋「㐂良久」(きらく)の名物。秘伝のソースを卵とじに混ぜ合わせたかつ丼で、福井県のご当地グルメ「ソースかつ丼」とはまた別物である。
今回の企画は、しぶそばのファンミーティングがきっかけだったという。参加者から富士そばとのコラボを望む声が挙がり、しぶそばサイドが富士そばに働きかけた(くまくん、ありがとう)。
㐂良久の懐の深さにも驚かされる。コラボを快諾するばかりか、ソースまで提供してくれるとは。代々受け継がれてきた味をしぶそばと富士そばがどのように活かすのか。各店ならではのアレンジもコラボの見どころといえるだろう。

まずは仕掛け人でもある、しぶそば版ソースかつ丼。一見すると通常のかつ丼のようだが、かつを口に運ぶとソースの酸味と華やかな香りが広がった。かつ丼のタレとソースが調和していて、なかなか上品な味わい。これならそばと一緒に食べても違和感がない。ビギナーの私が言うのもなんだが、とてもしぶそばらしい仕上がりな気がする。

富士そば版ソースかつ丼は、しぶそば版とは対極にある存在だ。もう見た目からして違う。かつの衣がソースで真っ黒に染まり、インパクト充分。酸味がガツンと効いていて、ジャンクフード的なアプローチを感じる。好みは分かれそうだが、これはこれでクセになる味わい。富士そばらしがよく出ていて好感がもてる。

ちなみに、両店ともにかつの下にキャベツを敷いている。㐂良久のレシピに倣っており、シャキシャキとした食感がよいアクセントになっている。こうした工夫もさることながら、そもそも卵とじタイプのかつ丼とソースの掛け合わせ自体が一種の発明といえるだろう(福井県の老舗にも似たようなメニューがあるらしい)。老舗の味を知るきっかけをくれた、しぶそばと富士そばには素直に感謝したい。
とはいっても、㐂良久のソースかつ丼はまだ味わえていない。1日にかつ丼三食はさすがに厳しく、この日は時間の都合で泣く泣く断念することに。果たして、本家の味はしぶそば版と富士そば版のどちらに近いのだろうか。綱島を再訪したときの楽しみにとっておきたい。
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