2021-06-14

コラム:富士そばを1500杯食べ続けて考えた「おすすめのメニュー」のこと

 「富士そばでおすすめのメニューはなんですか?」。「富士そばライター」を8年も続けていると、そのような質問をよく受ける。即答するのは難しい。質問者は大なり小なり富士そばに興味をもつ人である。つまり、今後富士そばユーザーになるか・ならないかの分かれ道に立っている状態。私の提案がミスリードを招き、富士そばにネガティブなイメージを植えつけてしまう可能性も充分考えられる。責任重大だ。

 相手が“美味しさ”を期待していると、こちらはいっそう慎重になる。身も蓋もない言い方になるが、富士そばのクオリティは100点満中66~72点くらいがいいところ。中庸、平凡、ふつう、なかには「それ以下」と評する人も。期待されると、却って萎縮してしまう……。
 そもそも、富士そばを“美味しい”とか“不味い”とかで語るのは、とても的外れなことで本質を見失わせる。もっと高次元に目を向けるべきなのだ。富士そばの本質とはなにか。ズバリ、富士そばは“面白い”か“面白くない”か。これに尽きる。ほかの立ち食いそば店では見かけない珍メニューこそ、富士そば最大の魅力。ハリウッド映画並みの喜怒哀楽が、ワンコインの一杯に詰まっているのだ。

 かといって、「肉骨茶そば」や「から揚げそば」「カレーかつ丼」などの攻めすぎたメニューは、ビギナーに刺激が強すぎる。
 富士そばらしい“面白さ”があり、万人でも許容できるメニューとは――。強いて挙げるなら、「ゆず鶏ほうれん草そば」(450円)だろうか。
 鶏むね鶏とほうれん草とゆず皮の彩りが目を引く器量よしの一杯。パンチの効いたメニューが揃うなかで、ヘルシーな仕上がりの「ゆず鶏ほうれん草」は貴重な存在だ。大抵の店舗に置いてあるし、メディアで紹介されることも少なくない。また、価格のわりに食べごたえあり。まさに優等生のようなメニューなのだ。

 ファストフードのリテラシーが高い人には、「紅生姜天そば」(430円)をおすすめしている。紅生姜と玉ねぎのかき揚げ「紅生姜天」は、辛味と甘味が織りなすジャンクな味わいがやみつきに。食べ進めていくうちに具と衣がつゆにズルズルと馴染んでいき、味のグラデーションも楽しめる。「ベニショ」と略すとツウっぽいのでぜひ。

 ここで、富士そばを創始したダイタンホールディングス会長・丹道夫氏のおすすめメニューも紹介しておこう。
 とあるテレビ番組で会長がおすすめに挙げたのが「ピリ辛鶏ねぎそば」(470円)。味の決め手は、ネギダレ(ごま油+みりん+豆板醤)を和えた白髪ねぎと鶏むね肉。荻窪店が発祥とされ、現在は複数の店舗で取り扱われている。

  また、漫画家・東海林さだお氏との対談記事では「食べやすいのはきつね(そば)ですね」とも。理由は「油があまり得意じゃないもんで」とのこと。魚介の風味があとをひく「煮干しラーメン」(460円)は、会長自ら発案したメニュー。著書で「ヒットするのが読めていた」と述懐するほど愛着を注いでる。

 ここで紹介したのは、数あるメニューの一部に過ぎない。大切なのは、自分の感性と味覚を信じて、これぞ! という一杯を追い求めること。
 再び冒頭の質問に思いを巡らせる。「最高の一杯はあなたの心のなかにありますよ」。臆面もなくそんな言葉が吐けるように早くなりたい。

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