コラム4:富士そば第三の麺「乱切り蕎麦」が目指した、食感の新機軸
前回のコラムは、富士そばで使われている2種類のそばについて紹介しました。となれば、こちらも紹介しないわけにはいきません。そう、一部の店舗だけで扱われている「乱切り蕎麦」です。
このそば最大の特長は、四種類の太さのそばがミックスされていること。形状の異なるそばによって、従来のストレート麺にはない独自の食感が楽しめます。
オペレーションも通常のそばと乱切り蕎麦で異なります。通常のそばは業者が製麺したそばを使っていますが、乱切り蕎麦は店内で製麺します。注文を受けたら、厨房に設置された押し出し式製麺機にそば生地を投入。すると、押し出し口からそばがニョロニョロと出てくるのです。
湯で時間はおよそ30秒。従来のそばが3分近くかかることを考えれば、とてもスピーディー。盛りそばやかけそばといった調理に手間のかからないメニューなら、1分程度で提供できることになります。
乱切り蕎麦は食感だけでなく、コシの強さも売りになっています。とにかくタフな噛みごたえ。従来の富士そばを食べ慣れている人は、きっと驚くことでしょう。
筆者と乱切り蕎麦のファーストコンタクトは、2017年3月のこと。他店に先駆けて、浜田山店に押し出し式製麺機が導入されたことを知り、駆けつけたのです。「こんなそばはじめて!」。富士そば新時代の幕開けに心躍ったものでした。それ以降、少しずつ取り扱い店が増えていきます。
浜田山店に遅れること一か月、慶応三田店(現在閉店)にも押し出し式製麺機が。通常よりもそば粉の配合が多い「二八そば」を使用した豪華版でした。今までにない攻めたコンセプトでしたが、学生街という立地になじまなかったのか、導入から半年ほどで閉業に……。
乱切り蕎麦の登場は、富士そばの新業態や上位ブランド立ち上げの足掛かりなのではないか。当初、筆者はそのように思っていました。それだけ画期的な試みに映ったのです。ところが、乱切り蕎麦の取り扱い店は、それほど多くはありません。
下記は、公式ホームページでまとめられている取り扱い店舗の一覧です(2021年9月時点)。
■乱切り蕎麦取り扱い店
富士見台店、代々木八幡店、しのばず店、池袋店、浜田山店、経堂店、西小山店、上板橋店、東十条店、学芸大学駅前店、国立南口店、小平店、ふじみ野店、みずほ台店、川口店、川越店、浦和仲町店、北浦和店、志木店、稲田堤店、藤沢店
およそ20軒、全店舗のうち1/6程度となっています。大抵の店舗が商店街に出店。エリアごとの出店割合で見ると埼玉県がトップで、8店舗中7店が取り扱い店です。こうなってくると、埼玉県民のなかには”富士そば=乱切り蕎麦”と思いこんでいる人もいるかもしれません。
なぜ、こじんまりとした展開にとどまっているのか。その答えは、乱切り蕎麦ゆえの弱みに直結しています。乱切り蕎麦は素早く提供できる反面、機械の都合上、一度に3玉しか茹でられないのです。もし、回転率の高い繁華街やオフィス街の店舗に導入しようものなら大混乱。となると、どうしても出店地を選ばざるをえません。
ただし、その制約が乱切り蕎麦の希少性にもつながっています。取り扱い店は、通常店とグランドメニューを共有していますが、独自の食感やコシを活かしたアプローチができれば、よりいっそう輝きを増すのではないでしょうか。立ち食いそばを食べ慣れている人も一度味わっておいて損はありません。
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コラム3:富士そばを取り巻く2種類のそばとは!? その謎を探るべく我々は店内奥へ足を踏み入れた
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